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心には緩ふことなく須加の山
すかなくのみや恋ひわたりなむ

歌の意味
心の中では緩むこともなく、須加の山の名のように、心楽しまないままに恋い続けるのだろうか。
鑑賞
巻第十七 4015

詞書は前の歌に続き「放逸せる鷹を思ひ、夢に見て感悦して作る歌一首并せて短歌」の反歌
 心の中では少しも緩むことなく、楽しまない思いのまま鷹を恋い続けるのだろうか、と鷹への執着を詠んだ歌である。天平十九年(747)九月二十六日、逃げた鷹を思い、夢のお告げを得て喜んだ家持が詠んだ長歌に添えた反歌である。左注によれば、射水郡古江村で捕らえた蒼鷹は姿が美しく、雉を捕ることに抜きん出ていたが、鷹飼の山田史君麻呂が調教の時節を誤り、狩りの最中に風に乗って高く飛び去り、雲に隠れて呼んでも戻らなかった。そこで網を張り、神々に幣を奉って祈っていたところ、夢に娘子が現れ、あの鷹は遠からず手に入るから思い悩むなと告げたので、目覚めて喜び、恨みを払う歌を作ったという。夢のお告げを得てもなお、鷹が戻るまでは晴れない心を、地名に掛けた言葉の技巧で表している。反歌の結びにあたる。
 作者の大伴家持は大納言大伴旅人の子である。天平十八年(746)に越中守となって五年を越中で過ごし、のちに少納言、因幡守などを歴任して中納言に至った。万葉集の編纂に深く関わったと考えられている人物である。
 左注に「右、射水郡古江村にして蒼鷹を取り獲たり。形容美麗にして雉を鷙ること群に秀れたり」に始まる記述があり、鷹が逃げた経緯と夢のお告げを記して、末尾に「守大伴宿祢家持(九月二十六日作る)」とある。

 初句「心には」は、心の中では、の意である。
 二句「緩ふことなく」は、緩むこともなく、の意で、鷹を思う心が少しも和らがないことを表す。
 三句「須加の山」は所在未詳の山の名で、同じ音の繰り返しによって四句の「すかなく」を導いている。
 四句「すかなくのみや」の「すかなし」は心が晴れない、楽しまない意で、「や」は疑問の係助詞として結句の「なむ」と係り結びをなす。
 結句「恋ひわたりなむ」は、恋い続けることになるのだろうか、の意で、鷹への尽きない思いを結んでいる。

すかのやま:所在未詳の山の名
すかなし:心が晴れない。楽しまない
ゆるふ:緩む。和らぐ
作者
大伴家持
出典
万葉集
前の歌
松反りしひにてあれかもさ山田の 翁がその日に求めあはずけむ
次の歌
婦負の野のすすき押しなべ降る雪に 宿借る今日し悲しく思ほゆ