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あゆの風いたく吹くらし奈呉の海人の
釣する小船漕ぎ隠る見ゆ

歌の意味
東風が激しく吹いているらしい。奈呉の海人の釣りをする小舟が、漕いで波間に隠れて行くのが見える。
鑑賞
巻第十七 4017

詞書なし(題詞を欠き、左注に「右の四首は、天平二十年春正月二十九日、大伴宿祢家持」とある)
 東風が激しく吹いているらしく、奈呉の海人の釣り舟が波間に見え隠れしながら漕いで行く、と越中の海の景を詠んだ歌である。天平二十年(748)正月二十九日、越中の家持が詠んだ四首の一つである。越の土地の言葉である「あゆの風」を取り入れ、荒れる冬の海で働く海人の姿を遠望している。
 作者の大伴家持は大納言大伴旅人の子である。天平十八年(746)に越中守となって五年を越中で過ごし、のちに少納言、因幡守などを歴任して中納言に至った。万葉集の編纂に深く関わったと考えられている人物である。
 初句には「越の俗の語に東風をあゆのかぜと謂ふ」という原注が添えられている。都の言葉ではない土地の方言を歌に取り入れたことを示す注である。

 初句「あゆの風」は原注にいうとおり、越の方言で東風のことである。家持が池主に贈った第四千六首の長歌にも「東風の風いたくし吹けば」と詠まれている。
 二句「いたく吹くらし」の「らし」は根拠に基づく推定で、激しく吹いているらしい、の意である。ここで句切れとなり、根拠を下の句に示す。次歌の第四千十八首も「寒く吹くらし」と同じ形をとっている。
 三句「奈呉の海人の」は奈呉の海で漁をする海人で、字余り(六音)である。秦八千島の第三千九百五十六首でも「奈呉の海人の釣する舟」が詠まれている。
 四句「釣する小船」は釣りをする小さな舟である。
 結句「漕ぎ隠る見ゆ」は、漕いで波間に隠れるのが見える、の意で、動詞の終止形に「見ゆ」が付く上代の語法である。巻頭の第三千八百九十首の「玉藻刈る見ゆ」と同じ語法で、海辺の人の営みを遠望する視線が巻の首尾に共通している。

あゆのかぜ:越の方言で東風
をぶね:小さな舟
なご:越中国の地名。現在の射水市放生津付近の海
作者
大伴家持
出典
万葉集
前の歌
婦負の野のすすき押しなべ降る雪に 宿借る今日し悲しく思ほゆ
次の歌
港風寒く吹くらし奈呉の江に 妻呼び交し鶴多に鳴く