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波立てば奈呉の浦廻に寄る貝の
間なき恋にぞ年は経にける

歌の意味
波が立つと奈呉の浦辺に寄ってくる貝のように、絶え間のない恋しさのうちに年は過ぎてしまった。
鑑賞
巻第十八 4033

詞書は前の歌に続き「天平二十年春三月二十三日、左大臣橘家の使者造酒司令史田辺福麻呂に、守大伴宿禰家持の館にて饗す。ここに新しき歌を作り、并せて便ち古き詠を誦み、各心緒を述ぶ」
 奈呉の浦に絶えず寄せる貝のように、絶え間なく恋い慕ううちに年月が過ぎたと詠む。宴の主人である家持に会いたいと長く思い続けてきたという、客としての挨拶の心をこめた歌とみられる。
 作者の田辺福麻呂は造酒司の令史で、左大臣橘諸兄の使いとして越中を訪れた。宮廷を讃える長歌を得意とした万葉集後期の歌人である。
 左注によれば、前歌から本巻の第四千三十五首までの四首が福麻呂の作である。

 初句「波立てば」「已然形+ば」で、波が立つといつもという恒常的な条件を表す。前歌の「波立ち来や」を受けて、同じ奈呉の波を歌い起こす。
 二句「奈呉の浦廻に」「浦廻」は浦の入り組んだあたりをいう。前歌の「奈呉の海」を、波の寄せる浜辺へと近づけて詠んでいる。
 三句「寄る貝の」初句からここまでが序詞で、貝が絶え間なく寄せることから、四句の「間なき」を導く。
 四句「間なき恋にぞ」「間なき」は絶え間ないの意。「ぞ」は強意の係助詞で、結句の「ける」と係り結びをなす。
 結句「年は経にける」「に」は完了、「ける」は詠嘆の助動詞「けり」の連体形で、「ぞ」の結びである。恋しく思ううちに年が過ぎてしまったという感慨で結ぶ。

うらみ:浦廻。海岸の入り組んだところ。浦のあたり
作者
田辺福麻呂
出典
万葉集
前の歌
奈呉の海に舟しまし貸せ沖に出でて 波立ち来やと見て帰り来む
次の歌
奈呉の海に潮の早干ばあさりしに 出でむと鶴は今ぞ鳴くなる