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奈呉の海に潮の早干ばあさりしに
出でむと鶴は今ぞ鳴くなる

歌の意味
奈呉の海で潮が早く引いたら餌をあさりに出ようと、鶴は今まさに鳴いているようだ。
鑑賞
巻第十八 4034

詞書は前の歌に続き「天平二十年春三月二十三日、左大臣橘家の使者造酒司令史田辺福麻呂に、守大伴宿禰家持の館にて饗す。ここに新しき歌を作り、并せて便ち古き詠を誦み、各心緒を述ぶ」
 潮が早く引いたら餌をあさりに出ようと、鶴が今しきりに鳴いているようだと詠む。宴の座で聞こえる鶴の声に、潮の満ち引きとともに生きる奈呉の海辺の様子を想像し、主人の住む土地を讃えている。
 作者の田辺福麻呂は造酒司の令史で、左大臣橘諸兄の使いとして越中を訪れた。宮廷を讃える長歌を得意とした万葉集後期の歌人である。
 冒頭の第四千三十二首からの三首はいずれも奈呉の海を詠み、舟、波と貝、潮と鶴と、海辺の景物を少しずつ変えながら連ねている。

 初句「奈呉の海に」本巻の第四千三十二首と同じ初句で、一連の舞台が奈呉の海であることを改めて示す。
 二句「潮の早干ば」「早干ば」は早く干潮になったならの意で、未然形+ばの仮定条件である。
 三句「あさりしに」「あさり」は鳥などが餌を探し求めること。干潟に下りて餌を探す鶴の習性をとらえている。
 四句「出でむと鶴は」「む」は意志の助動詞で、鶴の気持ちを推し量る言い方である。
 結句「今ぞ鳴くなる」「ぞ」は強意の係助詞、「なる」は音によって推定する助動詞「なり」の連体形で、係り結びをなす。姿は見えず声だけが聞こえるさまを表している。

あさる:鳥や獣が餌を探し求める
たづ:鶴の歌語
作者
田辺福麻呂
出典
万葉集
前の歌
波立てば奈呉の浦廻に寄る貝の 間なき恋にぞ年は経にける
次の歌
霍公鳥いとふ時なしあやめぐさ かづらにせむ日こゆ鳴き渡れ