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朝開き入江漕ぐなる楫の音の
つばらつばらに我家し思ほゆ

歌の意味
朝の船出に入江を漕いでいるらしい楫の音のように、つくづくと我が家のことが思われる。
鑑賞
巻第十八 4065

詞書「射水郡の駅館の屋の柱に題し著けたる歌一首」
 朝の船出に入江を漕ぐ楫の音のように、しみじみと我が家が思われると詠む。射水郡の駅館の柱に書きつけられていた歌で、旅の途中で宿った人が家を恋しく思う心を書き残したものである。
 作者は明らかでない。左注に「右の一首は山上臣の作。名を審らかにせず。或いは云ふ、憶良大夫の男なりと。ただしその正名は未だ詳らかならず」とあり、山上憶良の子かともいわれるが確かではない。

 初句「朝開き」朝早く港から船出すること。旅の朝の情景を描き出す。
 二句「入江漕ぐなる」「なる」は音による推定の助動詞「なり」の連体形で、漕いでいるらしいの意。駅館で聞こえてくる音をとらえている。
 三句「楫の音の」初句からここまでが序詞で、楫の音の「つばら」という響きから、四句の「つばらつばらに」を導く。
 四句「つばらつばらに」つくづくと、しみじみとの意で、同じ語を重ねて思いの深さを表す。
 結句「我家し思ほゆ」「し」は強意の副助詞、「思ほゆ」は自然に思われるの意である。家持が詠んだ本巻の第四千四十八首の「奈良の我家を」と同じく、旅先で家を思う心を詠んでいる。

あさびらき:朝早く港から船出すること
かぢ:楫。舟をこぐ道具。櫂や櫓の総称
わぎへ:我が家
出典
万葉集
前の歌
大君は常磐にまさむ橘の 殿の橘ひた照りにして
次の歌
卯の花の咲く月立ちぬ霍公鳥 来鳴き響めよ含みたりとも