一本のなでしこ植ゑしその心
誰れに見せむと思ひ始めけむ
- 歌の意味
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一株のなでしこを植えたその心は、誰に見せようと思って植え始めたのであろうか。
- 鑑賞
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巻第十八 4070
詞書「庭中の牛麦花を詠む歌一首」
一株のなでしこを植えたその心は、誰に見せようと思い始めたものだったのかと詠む。都へ上る僧清見の送別の宴で、庭のなでしこを詠んで酒を送ったもので、花を見せたかったのはまさにあなただったのに、という別れを惜しむ心がこめられている。
作者の大伴家持は大伴旅人の子で、天平十八年(746)から越中守として赴任していた。万葉集の編纂に深く関わったとされ、本巻は家持の越中時代の歌日誌の性格をもつ。
左注に「右、先の国師の従僧清見、京師に入るべし。因りて飲饌を設けて饗宴す。時に主人大伴宿禰家持この歌詞を作り、酒を清見に送る」とある。天平二十一年(749)春の作とみられる。
初句「一本の」一株のの意。ただ一株であることが、植えた人の思いの深さを感じさせる。
二句「なでしこ植ゑし」詞書の「牛麦」はなでしこを指す。家持は越中の館の庭になでしこを植えて愛でていた。
三句「その心」植えたときの心を取り立て、四句以下でその心の向かう先を問う。
四句「誰れに見せむと」「む」は意志の助動詞で、誰に見せようとしての意。答えは目の前の清見であることが暗に示されている。
結句「思ひ始めけむ」「けむ」は過去推量の助動詞で、思い始めたのだろうかと、自らの心を振り返って問う形で結ぶ。
なでしこ:ナデシコ科の草花。夏から秋に淡紅色の花を咲かせる
こくし:国師。諸国に置かれ、僧尼の監督や経典の講説にあたった僧
- 作者
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大伴家持
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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明日よりは継ぎて聞こえむ霍公鳥 一夜のからに恋ひわたるかも
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しなざかる越の君らとかくしこそ 柳かづらき楽しく遊ばめ