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草枕旅の翁と思ほして
針ぞ賜へる縫はむ物もが

歌の意味
旅の老人だとお思いになって、針をくださったのだな。縫う物があればよいのだが。
鑑賞
巻第十八 4128

詞書「越前国の掾大伴宿禰池主の来贈せる戯れの歌四首」
 旅の老人だと思って針をくださったのだろうが、縫う物があればよいのにと詠む。家持から針を贈られた池主が、そのお礼をユーモアたっぷりに述べた戯れの歌である。
 作者の大伴池主は大伴氏の一族で、家持が越中守であったころ越中の掾として仕え、家持と多くの歌や書簡を交わした。このときは越前国の掾に転じていた。
 添えられた書簡は、思いがけず賜り物を受けた驚きと喜びを述べつつ、品物の取り替えを律令の罪になぞらえて戯れに訴え、早く返事をよこすよう求める、法律文書をまねた戯文である。天平勝宝元年(749)十一月十二日の日付がある。本巻の第四千百三十一首の左注に「右の歌の返報の歌は、脱漏して探り求むること得ず」とあり、家持の返歌は伝わらない。

 初句「草枕」旅にかかる枕詞である。草を枕に寝る旅の不便さから旅を導く。
 二句「旅の翁と」池主が自らを旅の老人にたとえる。任国にある身を旅人と見立てている。
 三句「思ほして」「思ほす」は「思ふ」の尊敬語で、家持がそうお思いになって、の意である。
 四句「針ぞ賜へる」「ぞ」は強意の係助詞で、連体形の「る」と係り結びをなす。旅の身で衣を繕うための針をくださったのだとする。
 結句「縫はむ物もが」「もが」は願望の終助詞で、縫う物があればよいのにの意。針はあっても縫う物がないと、とぼけて結ぶ。本巻の第四千百三十三首の「翁さびせむ」と「翁」が響き合い、戯れの歌群を貫いている。

くさまくら:旅にかかる枕詞
おきな:翁。老人
作者
大伴池主
出典
万葉集
前の歌
安の川こ向ひ立ちて年の恋 日長き子らが妻どひの夜ぞ
次の歌
針袋取り上げ前に置き返さへば おのともおのや裏も継ぎたり