春まけてもの悲しきにさ夜更けて
羽振き鳴く鴫誰が田にか住む
- 歌の意味
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春になって何となくもの悲しいのに、夜が更けて羽ばたきながら鳴く鴫は、いったい誰の田に住んでいるのだろう。
- 鑑賞
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巻第十九 4141
詞書「飜り翔ける鴫を見て作る歌一首」
春の訪れとともに理由もなく湧くもの悲しさの中で、夜更けに羽ばたき鳴く鴫の声を聞き、その鳥の住む田を思いやった歌である。詞書は「見て」とするが、歌は夜の闇の中で羽音と声を聞く趣で、聴覚から春の夜の寂しさを描き出している。
春の景物に愁いを重ねる感覚は、巻末の春愁の歌(本巻の第四千二百九十首から第四千二百九十二首)と通じ合い、巻十九を貫く家持の春の憂愁がここにすでに現れている。
作者の大伴家持は、大納言大伴旅人の子で、天平十八年(746)から越中守として越中国府(現在の富山県高岡市伏木)に赴任していた。万葉集の編纂に深く関わったとされる奈良時代を代表する歌人である。
初句「春まけて」の「まく」は、その時期を待ち受ける、その時期になる意で、春になってという季節の到来を示す。
二句「もの悲しきに」は、はっきりした理由のない悲しみをいい、接続助詞「に」が「〜のに」と逆接気味に下へつなぐ。
三句「さ夜更けて」の「さ」は語調を整える接頭語で、時間を夜更けへと移し、昼の愁いを夜の情景に重ねる。
四句「羽振き鳴く鴫」は、羽ばたきながら鳴く鴫の姿と音をとらえ、詞書の「飜り翔ける」に対応している。
結句「誰が田にか住む」は、係助詞「か」を受けて連体形「住む」で結ぶ係り結びで、鳴く鳥の行方への問いかけに自らの寄る辺なさを響かせている。
まく:その時期を待ち受ける、その時期になる
はぶく:羽ばたく
しぎ:水辺や田に住むシギ科の鳥
- 作者
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大伴家持
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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吾が園の李の花か庭に散る はだれのいまだ残りたるかも
- 次の歌
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春の日に張れる柳を取り持ちて 見れば都の大道し思ほゆ