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春まけてかく帰るとも秋風に
もみたむ山を越え来ざらめや

歌の意味
春になってこのように帰って行っても、秋風が吹けば、紅葉するであろう山を越えて、また来ないことがあろうか、きっとやって来るだろう。
鑑賞
巻第十九 4145

詞書は前の歌に続き「帰る雁を見る歌二首」
 春になって北へ帰っていく雁に対し、秋風が吹くころには紅葉の山を越えて必ずまた来るだろうと、再来を期して見送った歌である。前歌の望郷の寂しさを受けて、季節が巡れば再び会えるという慰めへと思いを転じている。
 原文には「一に云ふ、春されば帰るこの雁」という異伝が注記されており、初二句を「春になると帰って行くこの雁は」とする形も伝わっていたことがわかる。ここでは本文の形を採る。
 作者の大伴家持は、大納言大伴旅人の子で、天平十八年(746)から越中守として越中国府(現在の富山県高岡市伏木)に赴任していた。万葉集の編纂に深く関わったとされる奈良時代を代表する歌人である。

 初句「春まけて」は、本巻の第四千百四十一首の初句と同じ語で、春という時節になったことを示す。
 二句「かく帰るとも」の「とも」は逆接仮定で、このように帰って行ったとしてもと、前歌の雁の帰還を受けている。
 三句「秋風に」は、帰る春から再び来る秋へと時間を大きく転じ、季節の巡りを示している。
 四句「もみたむ山を」の「もみつ」は紅葉する意の動詞で、「む」の推量により、秋になれば色づくであろう山をいう。
 結句「越え来ざらめや」の「や」は反語で、越えて来ないことがあろうか、必ず来るとの強い確信を表している。

もみつ:草木の葉が色づく、紅葉する
作者
大伴家持
出典
万葉集
前の歌
燕来る時になりぬと雁がねは 国偲ひつつ雲隠り鳴く
次の歌
夜ぐたちに寝覚めて居れば川瀬尋め 心もしのに鳴く千鳥かも