夜ぐたちに寝覚めて居れば川瀬尋め
心もしのに鳴く千鳥かも
- 歌の意味
-
夜更けに目が覚めて起きていると、川の瀬を探し求めて、心もしおれるほどに鳴く千鳥であることよ。
- 鑑賞
-
巻第十九 4146
詞書「夜の裏に千鳥の喧くを聞く歌二首」
夜更けにふと目覚めると、川の瀬を求めて鳴く千鳥の声が聞こえ、その声に心がしおれるような思いがしたという歌である。闇の中で耳を澄ます作者の孤独と、千鳥の声の哀切さとが溶け合っている。
四句「心もしのに」は、柿本人麻呂の「淡海の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのに古思ほゆ」(巻第三の第二百六十六首)と同じ表現で、千鳥の声に心を揺さぶられるという先例を踏まえていると考えられる。
作者の大伴家持は、大納言大伴旅人の子で、天平十八年(746)から越中守として越中国府(現在の富山県高岡市伏木)に赴任していた。万葉集の編纂に深く関わったとされる奈良時代を代表する歌人である。
初句「夜ぐたちに」の「夜ぐたち」は、夜が更けていくこと、夜更けの意である。
二句「寝覚めて居れば」は、眠りから覚めてそのまま起きていると、という状況を示し、千鳥の声を聞く場面を整える。
三句「川瀬尋め」の「尋む」は探し求める意で、千鳥が餌や居場所を求めて川瀬を移り鳴くさまをいう。
四句「心もしのに」は、心がしおれるほどに、しんみりとの意で、人麻呂の歌と同じ句を用いて哀感を深めている。
結句「鳴く千鳥かも」の「かも」は詠嘆で、声の主である千鳥に思いを寄せて結んでいる。次歌の二句「鳴く川千鳥」へと受け継がれる。
よぐたち:夜が更けていくこと、夜更け
とむ:探し求める
ちどり:水辺に住むチドリ科の鳥
- 作者
-
大伴家持
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
春まけてかく帰るとも秋風に もみたむ山を越え来ざらめや
- 次の歌
-
夜くたちて鳴く川千鳥うべしこそ 昔の人も偲ひ来にけれ