古典和歌stream

今日のためと思ひて標しあしひきの
峰の上の桜かく咲きにけり

歌の意味
今日の宴のためにと思って目印をつけておいた峰の上の桜が、このように見事に咲いたことだ。
鑑賞
巻第十九 4151

詞書「三日、守大伴宿祢家持の館にして宴する歌三首」
 三月三日の上巳の節句に、国守の館で開いた宴の席で、主人の家持が客を迎えて詠んだ歌である。今日の宴のためにと目をつけておいた山の桜が見事に咲いたことを喜び、客をもてなす心を表している。
 上巳は中国伝来の節日で、水辺で穢れを祓い、曲水の宴などが行われた。宴の三首はいずれもこの節日を祝う趣で詠まれている。
 作者の大伴家持は、大納言大伴旅人の子で、天平十八年(746)から越中守として越中国府(現在の富山県高岡市伏木)に赴任していた。万葉集の編纂に深く関わったとされる奈良時代を代表する歌人である。

 初句「今日のためと」は字余りで、宴の当日である「今日」を最初に掲げ、もてなしの心を前面に出している。
 二句「思ひて標し」の「標す」は、自分のものとして目印をつけておく意で、前もって桜を見定めていた用意を示している。
 三句「あしひきの」は「峰」にかかる枕詞である。
 四句「峰の上の桜」の「峰の上」は山の頂きのあたりをいい、遠く山の上に咲く桜を宴の景物としている。
 結句「かく咲きにけり」の「けり」は詠嘆で、いまこのように咲いていることに気づいた喜びを表して結んでいる。

しむ:自分のものと示すために目印をつける、占有する
をのへ:峰の上、山の頂
じやうし:上巳、陰暦三月三日の節句
作者
大伴家持
出典
万葉集
前の歌
朝床に聞けば遥けし射水川 朝漕ぎしつつ唄ふ舟人
次の歌
奥山の八つ峰の椿つばらかに 今日は暮らさね大夫の伴