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礒の上のつままを見れば根を延へて
年深からし神さびにけり

歌の意味
磯の上に立つつままの木を見ると、根を長く張って、ずいぶん年を経ているらしい。神々しい姿になっていることだ。
鑑賞
巻第十九 4159

詞書「季春三月九日、出挙の政に擬りて旧江村に行く。道の上にして物花を属目する詠、并せて興の中に作る歌 / 渋谿の埼を過ぎて巌の上の樹を見る歌一首[樹の名はつまま]」
 出挙の公務で旧江村へ向かう途中、渋谿の崎を通りかかり、岩の上に根を張って立つつままの木を見て、その古木の神々しさに打たれた歌である。長い年月を生き抜いてきた木への畏敬が、簡潔な言葉で表されている。
 出挙とは、国司が春に稲を貸し付けて秋に利息とともに回収する制度で、国守の重要な職務であった。渋谿は現在の高岡市太田の雨晴海岸一帯とされ、つままはタブノキのこととされる。詞書によれば、この巡行の途上でいくつもの歌が作られている。
 作者の大伴家持は、大納言大伴旅人の子で、天平十八年(746)から越中守として越中国府(現在の富山県高岡市伏木)に赴任していた。万葉集の編纂に深く関わったとされる奈良時代を代表する歌人である。

 初句「礒の上の」は、海辺の岩の上を示し、荒波に洗われる厳しい場所に立つ木であることを表している。
 二句「つままを見れば」は、木の名を挙げて見る行為を示し、以下の発見と感動を導いている。
 三句「根を延へて」の「延ふ」は長く延ばす意で、岩の上に根を張りめぐらせた木の力強さを描いている。
 四句「年深からし」の「らし」は根拠に基づく推定で、張りめぐらされた根の様子から、長い年月を経ていることを推し量っている。
 結句「神さびにけり」の「神さぶ」は古びて神々しくなる意、「けり」は詠嘆で、古木に宿る神聖さへの感動を表して結んでいる。

つまま:タブノキとされる常緑樹
はふ:長く延ばす
かむさぶ:古びて神々しくなる
すいこ:出挙、国司が春に稲を貸し付け秋に利息とともに回収した制度
作者
大伴家持
出典
万葉集
前の歌
年のはに鮎し走らば辟田川 鵜八つ潜けて川瀬尋ねむ
次の歌
言とはぬ木すら春咲き秋づけば もみち散らくは常をなみこそ