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妹に似る草と見しより我が標し
野辺の山吹誰れか手折りし

歌の意味
あなたに似た花だと思って見たときから、私が目印をつけておいた野辺の山吹を、いったい誰が手折ってしまったのか。
鑑賞
巻第十九 4197

詞書「京人に贈る歌二首」
 都の家持の妹に贈った歌で、あなたに似ていると思って目印をつけておいた野辺の山吹を、誰が手折ってしまったのかと詠んでいる。山吹を妹になぞらえ、自分の大切にしていたものが人に奪われたかのように嘆いてみせる、親愛の情を込めた戯れの歌である。
 左注に「右は、留女の女郎に贈らむために家婦に誂へらえて作るなり」とあり、さらに「女郎はすなはち大伴家持の妹なり」と注されている。家持が妻坂上大嬢に頼まれ、都にいる家持の妹に贈るために代作したもので、本巻の第四千百八十四首への返歌にあたる。妹が山吹の花を手に取って偲ぶと詠んだのに、同じ山吹で応じている。
 作者の大伴家持は、大伴旅人の子で、越中守として越中国府に赴任していた。この二首は妻坂上大嬢の立場に立って詠んだ代作である。

 初句「妹に似る」の「妹」は、ここでは贈る相手である家持の妹を親しんで呼んだもので、山吹の花の美しさを相手になぞらえている。
 二句「草と見しより」は、そう見たときからの意で、山吹を大切に思い始めたきっかけを示している。
 三句「我が標し」の「標す」は自分のものとして目印をつける意で、山吹への愛着と所有の意識を表している。
 四句「野辺の山吹」は、前歌(本巻の第四千百八十四首)の山吹を受けて、野辺に咲く山吹を示している。
 結句「誰れか手折りし」は、係助詞「か」を受けて連体形「し」で結ぶ係り結びで、誰が手折ったのかと恨むように問いかけて結んでいる。

しむ:自分のものとして目印をつける
たをる:手で折り取る
作者
大伴家持
出典
万葉集
前の歌
月立ちし日より招きつつうち偲ひ 待てど来鳴かぬ霍公鳥かも
次の歌
つれもなく離れにしものと人は言へど 逢はぬ日まねみ思ひぞ我がする