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多胡の浦の底さへにほふ藤波を
かざして行かむ見ぬ人のため

歌の意味
多胡の浦の水底まで照り映えている藤の花を、髪に挿して帰ろう。これを見ていない人のために。
鑑賞
巻第十九 4200

詞書は前の歌に続き「十二日、布勢の水海に遊覧するに、多胡の湾に船泊てして藤の花を望み見て、各懐を述べて作る歌四首」
 多胡の浦での四首の二首目で、水底まで色が照り映えている藤の花を髪に挿して帰ろう、この景色を見ていない人のためにと詠んでいる。前歌の「底清み」を受けて、水底にまで映る藤の美しさを讃え、土産として持ち帰ろうという心を表している。
 左注に「次官内蔵忌寸縄麻呂」とあり、国守家持に続いて介の縄麻呂が唱和したことがわかる。
 作者の内蔵縄麻呂は、越中国の介(国司の次官)として国守の家持を補佐した官人である。

 初句「多胡の浦の」は字余りで、遊覧の場である多胡の浦を冒頭に示している。
 二句「底さへにほふ」の「さへ」は〜までもの意、「にほふ」は色が照り映える意で、前歌の「底清み」を受けて水底まで藤の色が映るさまを描いている。
 三句「藤波を」は、前歌の初句「藤波の」と同じ語を受けて、唱和の連なりを示している。
 四句「かざして行かむ」の「かざす」は髪に挿す意、「む」は意志で、藤を髪に飾って帰ろうという心を表している。
 結句「見ぬ人のため」は、この景色を見ていない人のためにの意で、都や家に残る人への思いやりを示して結んでいる。

かざす:髪や冠に花や枝を挿す
作者
内蔵縄麻呂
出典
万葉集
前の歌
藤波の影なす海の底清み 沈く石をも玉とぞ我が見る
次の歌
いささかに思ひて来しを多胡の浦に 咲ける藤見て一夜経ぬべし