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朝霧のたなびく田居に鳴く雁を
留め得むかも我が宿の萩

歌の意味
朝霧がたなびく田に鳴く雁を、引き留めることができるだろうか、我が家の庭の萩は。
鑑賞
巻第十九 4224

詞書はなく、左注に「右の一首の歌は、芳野の宮に幸せる時に、藤原皇后の作らせる。ただし年月いまだ審詳らかならず。十月五日、河辺朝臣東人伝誦してしか云ふ」とある
 朝霧がたなびく田で鳴いている雁を、我が家の庭の萩は引き留めることができるだろうかと詠んだ歌である。萩の美しさが渡ってきた雁をとどめるほどであってほしいという、秋の景への愛着が込められている。
 左注によれば、吉野の宮への行幸の折に光明皇后が詠んだ歌で、年月は不明であるが、十月五日に河辺東人が越中で伝誦したものという。越中で家持が都の古歌を聞き取り記録したことがわかる。
 作者の光明皇后は、藤原不比等の娘で聖武天皇の皇后となり、皇族以外から初めて皇后に立てられた人物である。仏教への篤い信仰で知られる。

 初句「朝霧の」は、朝の霧が立ちこめる秋の情景を示している。
 二句「たなびく田居に」の「田居」は田の意で、霧のたなびく田園を描いている。
 三句「鳴く雁を」は、北から渡ってきて田に降りて鳴く雁を示している。
 四句「留め得むかも」の「かも」は疑問と詠嘆で、引き留めることができるだろうかと問いかけ、ここで切れる四句切れとなっている。
 結句「我が宿の萩」は体言止めで、倒置によって雁を留めるものとして萩を最後に示して結んでいる。

たゐ:田、田んぼ
作者
光明皇后
出典
万葉集
前の歌
あをによし奈良人見むと我が背子が 標けむ黄葉地に落ちめやも
次の歌
あしひきの山の黄葉にしづくあひて 散らむ山道を君が越えまく