能登川の後には逢はむしましくも
別るといへば悲しくもあるか
- 歌の意味
-
能登川の名のように、後にはまた逢えるだろう。それでも、しばらくの間でも別れるというと、悲しいことであるよ。
- 鑑賞
-
巻第十九 4279
詞書「二十七日、林王の宅にして但馬按察使橘奈良麻呂朝臣を餞する宴の歌三首」
林王の邸で開かれた橘奈良麻呂の送別の宴で詠まれた歌で、後にはまた逢えるだろうが、しばらくの間でも別れるというと悲しいと、別れを惜しんでいる。
橘奈良麻呂は橘諸兄の子で、このとき但馬などの諸国の国司を監察する按察使として都を離れることになった。能登川は奈良の春日山から流れる川で、その名の「のと」の音から「後」を導いている。左注に「右の一首は、治部卿船王」とある。
作者の船王は、舎人親王の子で、淳仁天皇の兄にあたる。このころ治部卿であった。
初句「能登川の」は、奈良の能登川を示し、「のと」と「のち」の音の響きから二句の「後」を導く序詞となっている。
二句「後には逢はむ」の「む」は推量で、後にはまた逢えるだろうと述べ、ここで切れる二句切れとなっている。
三句「しましくも」は、しばらくの間でもの意で、短い別れでもと限定している。
四句「別るといへば」は、別れるというのでの意で、別れの事実を示している。
結句「悲しくもあるか」は字余りで、「か」は詠嘆を表し、別れの悲しさを率直に表して結んでいる。
あぜち:按察使、数か国の国司を監察する地方官
のとがは:奈良の春日山から流れる川
- 作者
-
船王
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
あしひきの山下ひかげかづらける 上にやさらに梅をしのはむ
- 次の歌
-
立ち別れ君がいまさば磯城島の 人は我れじく斎ひて待たむ