古典和歌stream

あしひきの山行きしかば山人の
我れに得しめし山づとぞこれ

歌の意味
山を歩いて行ったところ、山人が私に得させてくれた山の土産であるよ、これは。
鑑賞
巻第二十 雑歌 4293

詞書「山村に幸行しし時の歌二首 先の太上天皇、陪従の王臣に詔して曰はく、それ諸王卿等、宜しく和ふる歌を賦して奏すべし、と。即ち御口づから号びて曰はく」
 山へ出かけたところ、山人がこの山の土産を自分に授けてくれたと、手にした品を示して詠んだ一首である。詞書によれば、山村への行幸の折、太上天皇が供奉の王臣に唱和の歌を求め、まず自ら口ずさんだ歌である。「山人」には山に住む仙人の意が重なり、神仙思想を背景にした座興の問いかけとなっている。
 左注によれば、天平勝宝五年五月、少納言大伴家持が大納言藤原朝臣(仲麻呂)の家に奏上の用で控えていた折、少主鈴の山田史土麻呂が昔聞いた言葉としてこの歌を誦して聞かせたという。家持が伝え聞いた古歌として巻第二十の巻頭に置かれている。
 作者の先の太上天皇は元正天皇で、草壁皇子と元明天皇の娘であり、聖武天皇に譲位したのちも太上天皇として朝廷に重きをなした女帝である。

 初句「あしひきの」は「山」にかかる枕詞である。巻頭の一首が枕詞から始まり、次歌も同じ初句で応じている。
 二句「山行きしかば」の「しか」は過去の助動詞「き」の已然形で、「ば」を伴い、山を行ったところという確定条件を表す。
 三句「山人の」は山に住む人の意であるが、仙人の意を含ませている。次歌はこの「山人」を三度繰り返して受けている。
 四句「我れに得しめし」は「得」に使役の「しむ」と過去の「き」が付いた形で、私に得させてくれたの意である。
 結句「山づとぞこれ」は「ぞ」で強めたうえで「これ」と言いさす倒置の結びで、手にした土産を指し示す口ぶりが生きている。

やまづと:山から持ち帰る土産
やまびと:山に住む人。ここでは仙人の意を含む
作者
元正天皇
出典
万葉集
前の歌
うらうらに照れる春日にひばり上がり 心悲しも独し思へば
次の歌
あしひきの山に行きけむ山人の 心も知らず山人や誰れ