たちこもの立ちの騒きに相見てし
妹が心は忘れせぬかも
- 歌の意味
-
水鳥が飛び立つような出立の騒ぎの中で会った、妻の心は忘れることができない。
- 鑑賞
-
巻第二十 防人歌 4354
詞書は前の歌に続き「天平勝宝七歳乙未二月、相替りて筑紫の諸国に遣はさるる防人等が歌」
慌ただしい出立の騒ぎの中で会った妻の心が忘れられないと、別れ際の妻を思い出した一首である。上総国から進上された歌の八首目である。騒然とした出立の場で交わしたわずかな時に、妻の心の深さを感じ取っている。
作者の丈部与呂麻呂は上総国長狭郡の上丁と記される防人で、詳しい伝は残らない。
初句「たちこもの」は水鳥の名とされ、飛び立つ意から「立ち」にかかる枕詞である。駿河の防人の歌の「水鳥の立ちの急ぎに」と同じ発想である。
二句「立ちの騒きに」は出立の騒ぎの中での意である。
三句「相見てし」は互いに会ったの意で、別れ際の対面を指す。
四句「妹が心は」は妻の心はの意で、別れを悲しむ思いを指す。
結句「忘れせぬかも」は忘れることができないの意で、「かも」で詠嘆して結ぶ。
たちこも:水鳥の名とされる
さわき:騒ぎ
- 作者
-
丈部与呂麻呂
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
家風は日に日に吹けど我妹子が 家言持ちて来る人もなし
- 次の歌
-
よそにのみ見てや渡らも難波潟 雲居に見ゆる島ならなくに