- 歌の意味
-
荒々しく恐ろしい神のいます御坂に幣を奉って、無事を祈るこの命は、母と父のためである。
- 鑑賞
-
巻第二十 防人歌 4402
詞書は前の歌に続き「天平勝宝七歳乙未二月、相替りて筑紫の諸国に遣はさるる防人等が歌」
神の御坂に幣を奉って無事を祈る自分の命は、母と父のためであると、親を思って身の安全を祈った一首である。信濃国から進上された歌の二首目である。神の御坂は信濃と美濃の境の神坂峠とされ、険しい峠を越える際に峠の神に手向けをした習俗を踏まえている。自らの命を惜しむのは親のためであるという言葉に、親への思いが表れている。
作者の神人部子忍男は信濃国埴科郡の主帳と記される防人で、詳しい伝は残らない。
初句「ちはやぶる」は「神」にかかる枕詞である。
二句「神の御坂に」は神のいます峠にの意で、信濃と美濃の境の神坂峠を指すとされる。
三句「幣奉り」は峠の神に幣を捧げての意で、旅の安全を祈る手向けの作法である。
四句「斎ふ命は」は無事を祈る命はの意である。
結句「母父がため」は母と父のためであるの意で、命を祈る理由を述べて結ぶ。
みさか:峠の敬称
ぬさ:神に捧げる供え物
- 作者
-
神人部子忍男
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
唐衣裾に取り付き泣く子らを 置きてぞ来のや母なしにして
- 次の歌
-
大君の命畏み青雲の とのびく山を越よて来ぬかむ