色深く背なが衣は染めましを
み坂給らばまさやかに見む
- 歌の意味
-
夫の衣は色濃く染めておけばよかったのに。足柄の御坂を越えさせていただく時に、はっきりと見えるだろうに。
- 鑑賞
-
巻第二十 防人歌 4424
詞書は前の歌に続き「天平勝宝七歳乙未二月、相替りて筑紫の諸国に遣はさるる防人等が歌」
夫の衣を色濃く染めておけばよかった、御坂を越える時にはっきり見えるだろうにと、前歌の夫に応じた妻の一首である。左注によれば、武蔵国の部領防人使安曇三国が進上した歌の結びで、前歌の藤原部等母麻呂の妻の歌とされる。夫が峠から袖を振ったら見えるだろうかと詠んだのに対し、遠くからでも見えるように衣を濃く染めればよかったと応じ、夫婦の心が呼応している。
作者の物部刀自売は防人の妻と記され、前歌の作者藤原部等母麻呂の妻とされる。詳しい伝は残らない。
初句「色深く」は色濃くの意で、遠くからでも目立つようにという願いを示す。
二句「背なが衣は」は夫の衣はの意である。
三句「染めましを」の「まし」は反実仮想で、染めておけばよかったのにと悔やむ。ここで句切れとなる。
四句「み坂給らば」は神の峠を越えることを許されたならばの意で、峠の神に通行を許されるという考えを踏まえている。
結句「まさやかに見む」ははっきりと見えるだろうにの意で、前歌の結句「さやに見もかも」に応じて結ぶ。
たばる:いただく。許される
- 作者
-
物部刀自売
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
足柄の御坂に立して袖振らば 家なる妹はさやに見もかも
- 次の歌
-
防人に行くは誰が背と問ふ人を 見るが羨しさ物思ひもせず