うち靡く春を近みかぬばたまの
今夜の月夜霞みたるらむ
- 歌の意味
-
草木のなびく春が近いからだろうか、今夜の月はこんなにも霞んでいるのだろう。
- 鑑賞
-
巻第二十 雑歌 4489
詞書は前の歌に続き「十二月十八日、大監物三形王の宅にして宴する歌三首」
春が近いからだろうか、今夜の月は霞んでいるのだろうと、春の気配を月に感じた一首である。左注によれば、大蔵大輔甘南備伊香真人の作である。前歌の主人が明日は春と詠んだのを受け、霞む月にその兆しを見出して応じている。
作者の甘南備伊香はもと伊香王といい、のちに甘南備真人の姓を賜った。この時は大蔵大輔であった。
初句「うち靡く」は草木がなびく意から「春」にかかる枕詞である。
二句「春を近みか」の「み」は原因を表し、春が近いからかの意である。「か」は疑問の係助詞で、結びは結句の連体形「らむ」となる。
三句「ぬばたまの」は「夜」にかかる枕詞で、ここでは「今夜」にかかっている。
四句「今夜の月夜」は今夜の月の意である。
結句「霞みたるらむ」の「らむ」は現在の原因推量で、霞んでいるのだろうと結ぶ。
うちなびく:「春」にかかる枕詞
つくよ:月。月夜
- 作者
-
甘南備伊香
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
み雪降る冬は今日のみ鴬の 鳴かむ春へは明日にしあるらし
- 次の歌
-
あらたまの年行き返り春立たば まづ我が宿に鴬は鳴け