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大き海の水底深く思ひつつ
裳引き平しし菅原の里

歌の意味
大海の水底のように深くあなたを思いながら、裳の裾を引いて行き来し、踏みならした菅原の里よ。
鑑賞
巻第二十 雑歌 4491

詞書なし。左注に「右の一首は、藤原宿奈麻呂朝臣の妻石川女郎、愛を薄くせられ離別せられて、悲しび恨みて作る歌なり」とあり、年月未詳と記される
 大海の水底のように深く思いながら、裳裾を引いて通い慣れた菅原の里よと、夫に捨てられた悲しみと恨みを詠んだ一首である。左注によれば、藤原宿奈麻呂の妻石川女郎が、夫の愛を失って離別された時に悲しみ恨んで作った歌で、年月は未詳である。前後の宴の歌の中に置かれており、宴の席で伝誦された古歌とみられる。かつて夫と暮らした里への思いに、愛の深さと失った悲しみが重ねられている。
 作者の石川女郎は藤原宿奈麻呂の妻で、詳しい伝は残らない。

 初句「大き海の」は大海のの意で、深さのたとえとなる。
 二句「水底深く」は水の底のように深くの意で、初句と二句が「深く思ひ」の比喩となっている。
 三句「思ひつつ」は夫を思いながらの意である。
 四句「裳引き平しし」は裳の裾を引いて行き来し、道を踏みならしたの意で、繰り返し通った日々を示す。
 結句「菅原の里」は奈良の菅原の地で、体言止めで思い出の里を示して結ぶ。

もびく:裳の裾を引く
ならす:踏みならす。平らにする
作者
石川女郎
出典
万葉集
前の歌
あらたまの年行き返り春立たば まづ我が宿に鴬は鳴け
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月数めばいまだ冬なりしかすがに 霞たなびく春立ちぬとか