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萌え出づる木の芽を見ても音をぞ泣く
かれにし枝の春を知らねば

歌の意味
萌え出る木の芽を見ても声を上げて泣いてしまう。枯れて、あなたが離れてしまった枝には春がめぐって来ないので。
鑑賞
巻第一 春歌上 14

詞書「かれにける男のもとに、その住みける方の庭の木の枯れたりける枝を折りてつかはしける」
 通って来なくなった男に、かつて二人が住んだ庭の枯れ枝を折って贈った歌である。周りの木々が芽吹く春にも、枯れた枝には春が来ないと詠み、男に離れられた我が身の悲しみを重ねている。
 詞書によれば、離れていった男のもとへ、その男が住んでいた方の庭の木の枯れた枝を折って添えた歌である。枯れ枝を実際に添えることで、歌の嘆きをいっそう切実に伝えている。
 作者の「兼覧王女」は兼覧王の娘である。兼覧王は惟喬親王の子で、宮内卿などを務めた。

 初句「萌え出づる」は、春に新芽が萌え出るさまを示す。
 二句「木の芽を見ても」は、周りの木々の新芽を見ても、の意で、春の生命力と我が身の嘆きを対比している。
 三句「音をぞ泣く」の「ぞ」は係助詞で、連体形「泣く」と係り結びをなし、声を上げて泣くことを強調している。ここで句切れとなる。
 四句「かれにし枝の」の「かれ」は、木が「枯れ」る意と、男が「離(か)れ」る意を掛けた掛詞である。「萌え」「木の芽」「枝」「春」は縁語として連なっている。
 結句「春を知らねば」は、枯れた枝には春がめぐって来ないので、の意である。我が身にはもう恋の春は来ないという嘆きを込めている。

かる:木が枯れる意と、男女の仲が離れる意を掛ける
このめ:木の芽、新芽
もえいづ:芽が萌え出る
作者
兼覧王女
出典
後撰和歌集
前の歌
春日野に生ふる若菜を見てしより 心を常に思ひやるかな
次の歌
いつの間に霞立つらん春日野の 雪だに解けぬ冬と見しまに