- 歌の意味
-
はじめて思いを打ち明けた昔の家のかきつばたは、その色だけが思い出のよすがであることだ。
- 鑑賞
-
巻第四 夏歌 160
詞書「藤原のかつみの命婦に住み侍りける男、人の手に移り侍りにける又の年、杜若につけてかつみにつかはしける」
はじめて思いを打ち明けた昔の家のかきつばたは、その色だけが形見であると詠んだ歌である。仲が絶えたのちも変わらず咲くかきつばたの色に、かつての恋の名残を見ている。
詞書によれば、藤原かつみの命婦のもとに通っていた男が、人の手に移ってしまった翌年、かきつばたに付けてかつみに贈ったものである。二人の仲が絶えた翌年の初夏、同じ季節にめぐってきた花に寄せて、昔を思い起こしている。
作者の良岑義方は良岑氏の官人で、朝臣の姓を持つ。詳しい経歴は伝わらない。
初句「言ひそめし」は、はじめて言い寄った、思いを打ち明けた、の意で、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
二句「昔の宿の」は、かつて通った相手の家を示す。
三句「杜若」は、初夏に紫の花を咲かせる水辺の草で、詞書にあるとおり、この花に付けて歌を贈っている。
四句「色ばかりこそ」は、色だけが、の意で、「こそ」は強意の係助詞である。人の心は移っても、花の色だけは変わらずに残ることを表している。
結句「形見なりけれ」は、思い出のよすがであることだ、の意で、已然形「けれ」が四句の「こそ」と係り結びをなす。
かきつばた:初夏に紫色の花を咲かせる、アヤメ科の水辺の草
かたみ:思い出のよすがとなるもの
みやうぶ:宮中に仕える中級の女官
- 作者
-
良岑義方
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
木隠れて五月待つとも郭公 羽ならはしに枝移りせよ
- 次の歌
-
行きかへる八十氏人の玉かづら かけてぞ頼むあふひてふ名を