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行きかへる八十氏人の玉かづら
かけてぞ頼むあふひてふ名を

歌の意味
行き来する多くの人々が玉かずらとして掛けている葵の、その「逢ふ日」という名を、心にかけて頼みにしていることだ。
鑑賞
巻第四 夏歌 161

詞書「賀茂祭の物見侍りける女の車に言ひ入れて侍りける」
 賀茂祭で行き交う大勢の人々が髪飾りに掛ける葵の、「逢ふ日」という名を心にかけて頼みにしていると詠んだ歌である。祭の葵に逢う日を重ね、見物の女に恋の思いを伝えている。
 詞書によれば、賀茂祭を見物していた女の車に、歌を言い入れたものである。賀茂祭では人々が葵を冠や車に掛けたことから、葵祭とも呼ばれる。次歌は女の返歌で、二首は贈答をなしている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
 藤原定家の定家八代抄にも採られている。

 初句「行きかへる」は、行き来する、の意で、祭見物に行き交う人々のにぎわいを示す。
 二句「八十氏人の」は、多くの氏の人々の、の意で、祭に集う大勢の人々を示す。
 三句「玉かづら」は、髪に掛ける美しい飾りで、ここでは葵の鬘を指す。「掛く」を導く言葉として四句へ続いている。
 四句「かけてぞ頼む」の「かけて」は、玉かづらを髪に掛ける意と、心にかける意を掛けた掛詞である。「ぞ」は強意の係助詞で、連体形「頼む」と係り結びをなす。次歌の第百六十二首は「かけても言ふな」と同じ語で応じている。
 結句「あふひてふ名を」の「あふひ」は、祭の「葵」と、「逢ふ日」を掛けた掛詞である。四句と倒置になっており、逢う日という名を頼みにする、の意である。次歌の第百六十二首も四句に「あふひてふ名は」を置いて受けている。

あふひ:賀茂祭に飾る「葵」と、「逢ふ日」を掛ける
かく:玉かづらを髪に掛ける意と、心にかける意を掛ける
やそうぢびと:多くの氏の人々、大勢の人々
たまかづら:髪に掛ける美しい飾り、ここでは葵の鬘
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
言ひそめし昔の宿の杜若 色ばかりこそ形見なりけれ
次の歌
木綿だすきかけても言ふな あだ人のあふひてふ名は禊にぞせし