古典和歌stream

五月雨に春の宮人来る時は
郭公をや鴬にせん

歌の意味
五月雨のころに春宮の宮人がやって来る時は、ほととぎすを鴬ということにしようか。
鑑賞
巻第四 夏歌 166

詞書「朱雀院の春宮におはしましける時、帯刀ら五月ばかり御書所にまかりて、酒などたうべてこれかれ歌よみけるに」
 五月雨のころに春宮に仕える人々が訪れたのだから、夏のほととぎすを春の鳥である鴬ということにしようかと詠んだ歌である。春宮の「春」に季節の春を重ね、宴の座を興じさせる機知の歌である。
 詞書によれば、朱雀院が春宮であったころ、帯刀たちが五月ごろ御書所を訪れ、酒などを飲んで皆で歌を詠んだ折のものである。春宮の宮人を迎えて、夏の鳥を春の鳥に見立てようと戯れている。
 作者の大春日師範は大春日氏の人で、経歴は詳らかでない。詞書の宴に連なった一人である。

 初句「五月雨に」は、五月雨のころに、の意で、詞書の五月ばかりという時期を示す。
 二句「春の宮人」は、春宮に仕える人々のことで、詞書の帯刀たちを指す。春宮の「春」に季節の春を響かせ、下の句の鴬を導いている。
 三句「来る時は」は、やって来る時は、の意である。
 四句「郭公をや」の「や」は疑問の係助詞で、ほととぎすを、の意である。夏の鳥であるほととぎすを、春の鳥と入れ替えようとしている。
 結句「鴬にせん」は、鴬ということにしようか、の意で、「ん」は意志の助動詞「む」の連体形で、四句の「や」と係り結びをなす。夏の五月雨と春の鴬を一首に取り合わせた機知が眼目である。

はるのみや:皇太子、またその御所、春宮
たちはき:春宮を警護する武官、帯刀
ごしよどころ:宮中の書籍を管理する役所、御書所
たうぶ:飲む、食べる
作者
大春日師範
出典
後撰和歌集
前の歌
匂ひつつ散りにし花ぞ思ほゆる 夏は緑の葉のみ茂れば
次の歌
短夜の更けゆくままに白妙の 峰の松風吹くかとぞ聞く