古典和歌stream

鏡山あけて来つれば秋霧の
けさやたつらんあふみてふ名は

歌の意味
鏡山の鏡を開けるように、夜が明けてから帰って来たので、秋霧が立つように、今朝は「近江」という名、逢う身だといううわさが立っているだろうか。
鑑賞
巻第十二 恋歌四 843

詞書「ある所に、近江といふ人をいと忍びて語らひ侍りけるを、夜明けて帰りけるを、人見てささやきければ、その女のもとにつかはしける」
 夜が明けてから帰って来たので、今朝は「近江」という名が秋霧のように立っているだろうか、と詠んだ歌である。人目を忍んだ逢瀬が明け方の帰りを見られて露見したことを、近江の地名や秋霧に託して詠んでいる。
 詞書によれば、ある所で近江という女房とひそかに親しくしていたが、夜が明けてから帰るのを人に見られてささやかれたので、その女のもとへ送った歌である。秋の景物を詠む一連の四首目である。
 作者の「坂上つねかげ」は坂上常景である。経歴の詳しいことは伝わらない。

 初句「鏡山」は、近江の歌枕である鏡山で、女の名の「近江」に縁のある地名を置いている。
 二句「あけて来つれば」は、夜が明けてから来たので、の意で、「あけ」に夜が「明け」る意と、鏡の箱を「開け」る意を掛けている。
 三句「秋霧の」は、秋霧のように、の意で、霧が立つことから四句の「たつ」を導いている。
 四句「けさやたつらん」は、今朝は立っているだろうか、の意で、「たつ」に霧が「立つ」意と、うわさが「立つ」意を掛けている。「や」は疑問の係助詞で、連体形「らん」で結ぶ係り結びとなっている。
 結句「あふみてふ名は」は、近江という名は、の意で、「あふみ」に女の名である「近江」と「逢ふ身」を掛けている。四句と倒置になっている。本巻の第八百五十八首、第八百五十九首、第八百七十五首も「あふみ」に「逢ふ身」を掛けている。

かがみやま:近江の歌枕、鏡山
あく:夜が「明く」意と、鏡の箱を「開く」意を掛ける
たつ:霧が「立つ」意と、うわさが「立つ」意を掛ける
あふみ:女の名の「近江」と、「逢ふ身」を掛ける
作者
坂上常景
出典
後撰和歌集
前の歌
君を思ふ心長さは秋の夜に いづれまさると空に知らなん
次の歌
枝もなく人に折らるる女郎花 ねをだに残せ植ゑし我がため