忘れねと言ひしにかなふ君なれど
訪はぬはつらきものにぞありける
- 歌の意味
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忘れてしまえと私が言ったとおりにしてくれるあなただけれど、訪れがないのはやはりつらいものであったよ。
- 鑑賞
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巻第十三 恋歌五 928
詞書「朝頼朝臣、年ごろ消息通はし侍りける女のもとより、用なし、今は思ひ忘れねとばかり申して久しうなりにければ、異女に言ひつきて消息もせずなりにければ」
忘れてしまえと言ったとおりにしてくれるあなただけれど、訪れがないのはやはりつらいものだった、と詠んだ歌である。自分から突き放しておきながら、本当に便りが途絶えるとつらく思う、矛盾した女心を率直に詠んでいる。
詞書によれば、朝頼朝臣が長年手紙を交わしていた女から、もう用はない、今は忘れてしまえとだけ言われて久しくなったので、別の女に言い寄って手紙もよこさなくなったため、女が詠んだ歌である。結句は本巻の第八百九十九首、第九百十三首と同じく「ものにぞありける」で結ばれている。
作者の本院のくらは、本院と呼ばれた藤原時平の邸に仕えた女房とみられ、詳しい伝は未詳である。
初句「忘れねと」は、忘れてしまえと、の意で、「ね」は完了の助動詞「ぬ」の命令形である。
二句「言ひしにかなふ」は、私が言ったとおりにする、の意で、「かなふ」は思いどおりになる意である。
三句「君なれど」は、あなたであるけれど、の意で、「ど」は逆接の接続助詞である。
四句「訪はぬはつらき」は、訪れないのはつらい、の意である。
結句「ものにぞありける」は、ものであったことだ、の意で、「ぞ」は強めの係助詞で、連体形「ける」で結ぶ係り結びとなっている。
かなふ:思いどおりになる、合致する
とふ:訪れる、便りをする
- 作者
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本院のくら
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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伊勢の海の千尋の浜に拾ふとも 今は何てふかひかあるべき
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春霞はかなくたちて別るとも 風より外に誰か訪ふべき