世の中に知られぬ山に身なくとも
谷の心やいはで思はむ
- 歌の意味
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世の中に知られていない山で身が亡びようとも、谷の心が何も言わずに黙って思っていようか。こだまのように言い立てるだろう。
- 鑑賞
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巻第十六 雑歌二 1164
詞書「返し、もとの男」
知られない山で死んだとしても、谷の心が黙って思っているだろうか、と詠んだ歌である。前歌の句を受けながら、山に隠れても谷はこだまを返して言い立てるように、事はいずれ知れ渡ると、妻のもとに通った男を皮肉っている。
前歌の賀朝法師の歌に対する、女のもとの夫の返しである。原文の作者表記は前歌と同じく賀朝法師とあるが、詞書に「もとの男」とあることから、女の夫の歌とみられる。
作者は詞書にいう女のもとの夫で、名は伝わらない。
初句「世の中に」は、世の中に、の意で、前歌の三句を受けている。
二句「知られぬ山に」は、知られていない山で、の意で、前歌の四句と同じ句である。
三句「身なくとも」は、身が亡びても、の意で、前歌の初句を受けている。
四句「谷の心や」は、谷の心が、の意で、山の縁で谷を持ち出している。「や」は反語の係助詞で、結句の連体形「む」で結ぶ係り結びとなっている。
結句「いはで思はむ」は、言わずに思っていようか、の意で、「いは」に「言は」と谷の縁の「岩」を響かせている。谷のこだまのように、黙ってはいないという意をこめている。
いはで:言わないで。谷の縁で「岩」を響かせる
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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身なくとも人に知られじ世の中に 知られぬ山を知るよしもがな
- 次の歌
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音にのみ聞きてはやまじ浅くとも いざ汲み見てん山の井の水