身なくとも人に知られじ世の中に
知られぬ山を知るよしもがな
- 歌の意味
-
たとえ身が亡びようとも、人に知られまい。世の中の誰にも知られていない山を、知る手だてがあればよいのに。
- 鑑賞
-
巻第十六 雑歌二 1163
詞書「人の妻に通ひける、見つけられ侍りて」
たとえ死んでも人に知られまい、誰にも知られない山を知るすべがあればよいのに、と詠んだ歌である。人妻のもとに通っていたことが露見し、恥ずかしさのあまり、誰にも知られない山に隠れてしまいたいと嘆いている。
詞書によれば、人の妻のもとに通っていたのが見つかってしまって詠んだ歌である。次歌に女のもとの夫の返しがあり、贈答となっている。
作者の賀朝法師は、平安時代前期の僧であるが、詳しい伝は未詳である。
初句「身なくとも」は、たとえ身が亡びても、の意で、「とも」は逆接の仮定を表す。次歌の三句にも同じ句が詠まれている。
二句「人に知られじ」は、人に知られまい、の意で、「じ」は打消の意志を表す。ここで句切れとなる。
三句「世の中に」は、世の中で、の意である。
四句「知られぬ山を」は、知られていない山を、の意で、二句の「知られじ」と同じ語を重ねている。次歌の二句にも同じ句がある。
結句「知るよしもがな」は、知る手だてがあればよいのに、の意で、「もがな」は願望を表す。「知る」を重ねる言葉遊びとなっている。
よし:手だて。方法
- 作者
-
賀朝法師
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
いかなりしふしにか糸の乱れけん しひて繰れどもとけず見ゆるは
- 次の歌
-
世の中に知られぬ山に身なくとも 谷の心やいはで思はむ