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忘るなと言ふに流るる涙川
憂き名をすすぐ瀬ともならなん

歌の意味
忘れるなとあなたが言うので流れる涙の川よ、せめてあなたの憂き名をすすぐ瀬ともなってほしい。
鑑賞
巻第十九 離別歌 1334

詞書「平高遠がいやしき名取りて人の国へまかりけるに、忘るなと言へりければ、高遠が妻の言へる」
 忘れるなと言うので流れる涙川が、憂き名をすすぐ瀬ともなってほしい、と詠んだ歌である。不名誉な評判を立てられて地方へ下る夫に、忘れるなと言われて流す涙が、せめて夫の汚名を洗い流す川の瀬になってほしいと願っている。
 詞書によれば、平高遠が不名誉な評判を立てられて地方へ下る時に、忘れるなと言ったので、高遠の妻が詠んだ歌である。本巻の第千三百二十七首も、別れの涙を「涙川」と詠んでいる。
 作者は「高遠が妻」とあり、平高遠の妻を指す。名は伝わらない。

 初句「忘るなと」は、忘れるなと、の意で、詞書の夫の言葉を受けている。
 二句「言ふに流るる」は、言うので流れる、の意である。
 三句「涙川」は、流れる涙を川にたとえた語である。
 四句「憂き名をすすぐ」は、つらい評判を洗い清める、の意で、詞書の「いやしき名」を受けている。
 結句「瀬ともならなん」は、瀬ともなってほしい、の意で、「なん」は他にあつらえ望む終助詞である。「流る」「すすぐ」「瀬」は「涙川」の縁語である。

うきな:つらい評判、不名誉な噂
すすぐ:洗い清める
作者
平高遠の妻
出典
後撰和歌集
前の歌
行く先を知らぬ涙の悲しきは ただ目の前に落つるなりけり
次の歌
我をのみ思ひつるがの浦ならば かへるの山は惑はざらまし