もろともに行かぬ三河の八橋は
恋しとのみや思ひわたらん
- 歌の意味
-
あなたと一緒に行かなかった三河の八橋を、私はただ恋しいとばかり思い続けることになるのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第六 別歌 317
詞書「源よしたねが三河の介にて侍りける、娘のもとに、母の詠みてつかはしける」
共に行くことのなかった三河の八橋を思い、娘をただ恋しいとばかり思い続けることになるのだろうかと詠む歌である。八橋の「橋」に、思いを渡り続ける意の「わたる」を響かせ、遠く離れた娘への尽きない思いを表している。詞書によれば、源よしたねが三河介として任国にあった時、同行した娘のもとへ、都に残った母が詠み送った歌である。三河の八橋は伊勢物語の東下りで知られる歌枕である。
作者の「源のよしたねの妻」は、三河介を務めた源よしたねの妻で、伝は明らかでない。
初句「もろともに」は、一緒に、の意である。
二句「行かぬ三河の」は、私が行かなかった三河の、の意である。前歌のしかすがの渡りに続き、三河の歌枕が詠まれる。
三句「八橋は」は、三河国の歌枕の八橋で、川が蜘蛛手のように分かれ、橋を八つ渡したことによる名とされる。
四句「恋しとのみや」は、恋しいとばかり、の意で、「や」は疑問の係助詞である。
結句「思ひわたらん」は、思い続けるのだろうか、の意で、「わたる」に橋を渡る意と、ずっと続ける意とを掛け、係助詞「や」を受けて連体形「らん」で結ぶ。次歌の第三百十八首も「橋」と「恋ひわたる」を詠み、橋の歌が対をなしている。
わたる:橋を渡る意と、ある状態を続ける意とを掛ける
やつはし:三河国の歌枕。伊勢物語の東下りで知られる
すけ:国司の次官。介
- 作者
-
源よしたねの妻
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
惜しむともなきものゆゑにしかすがの 渡りと聞けばただならぬかな
- 次の歌
-
別れ路は渡せる橋もなきものを いかでか常に恋ひわたるべき