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惜しむともかたしや別れ心なる
涙をだにもえやはとどむる

歌の意味
いくら惜しんでも、別れを止めることは難しい。自分の心から流れる涙でさえ、止めることなどできようか。
鑑賞
巻第六 別歌 322

詞書「同じ御乳母の餞に、殿上の男ども、女房など別れ惜しみ侍りけるに」
 いくら惜しんでも別れを止めるのは難しい、自分の心から出る涙でさえ止められないのだからと詠む歌である。自分の思いのままになるはずの涙さえ止められないことを引き合いに、まして人の旅立ちを止めることはできないという嘆きを表している。詞書によれば、前歌と同じ乳母肥後の餞別の席で、殿上人や女房たちが別れを惜しんだ時の歌である。原文の詞書には「女房なく」とあるが、「女房など」の意と見て表記する。
 作者の「御めのと少納言」は、村上天皇の乳母を務めた女房で、伝は明らかでない。

 初句「惜しむとも」は、惜しんだとしても、の意で、「とも」は逆接の仮定を表す。本巻の第三百十六首、第三百二十九首の初句も「惜しむ」に始まっている。
 二句「かたしや別れ」は、難しいことだ、別れは、の意で、倒置によって主語の「別れ」を後に置いている。ここで句切れとなる。本巻の第三百三首は落花で人を引き留めたいと願ったが、ここでは別れは引き留めがたいと嘆いている。
 三句「心なる」は、自分の心の中にある、の意である。
 四句「涙をだにも」は、涙でさえも、の意で、「だに」は軽いものをあげて重いものを類推させる。
 結句「えやはとどむる」は、止めることができようか、の意で、「え」は可能、「やは」は反語を表し、連体形「とどむる」で結ぶ。前歌の「とどめがたみ」を受けている。

てんじやうびと:清涼殿の殿上の間に昇ることを許された人
めのと:貴人の子に乳を与え養育する女性。乳母
作者
御乳母少納言
出典
拾遺和歌集
前の歌
行く人をとどめがたみの唐衣 たつより袖の露けかるらん
次の歌
東路の草葉を分けん人よりも 後るる袖ぞまづは露けき