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昔我が折りし桂のかひもなし
月の林の召しに入らねば

歌の意味
昔、私が月の桂を折るように試験に及第したかいもない。月の林、すなわち月林寺へのお召しに加えていただけなかったので。
鑑賞
巻第八 雑歌上 472

詞書「清慎公、月林寺にまかりけるに、遅れてまうで来て詠み侍りける」
 昔、桂を折るように試験に及第したかいもない、月の林へのお召しに加えられなかったのだからと詠む歌である。詞書から、清慎公すなわち藤原実頼が月林寺に出かけた折、遅れて参上した作者が詠んだ歌とわかる。官吏登用の試験に及第することを「桂を折る」と言う故事を踏まえ、寺の名の「月林」を月の林に見立てて、文人として召されなかった不満を機知に託している。次歌の第四百七十三首も月の桂を折る故事を詠み、二首が対をなしている。
 作者の「藤原後生」は、平安時代中期の文人で、文章道に学んだ人物とされるが、伝の詳細は明らかでない。
 月に桂の木が生えるという中国の伝説から、晋の郤詵が科挙の及第を「桂林の一枝」にたとえた故事により、試験の及第を「桂を折る」と言うようになった。

 初句「昔我が」は、昔私が、の意である。
 二句「折りし桂の」は、折った桂の、の意で、試験に及第したことをいう。「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。次歌の三句「折るばかり」も同じ故事を踏まえている。
 三句「かひもなし」は、かいもない、の意で、ここで句切れとなる。
 四句「月の林の」は、月の林の、の意で、寺の名の「月林寺」を月に桂の生える林に見立てている。
 結句「召しに入らねば」は、お召しに加えられなかったので、の意で、「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形、「ば」は理由を表す。倒置によって、かいがないと嘆く理由を後から示している。

かつら:月に生えるという伝説上の木。その枝を折ることは官吏登用の試験に及第するたとえ
めし:お召し。呼び寄せられること
作者
藤原後生
出典
拾遺和歌集
前の歌
年月は昔にあらず成りゆけど 恋しきことは変はらざりけり
次の歌
久方の月の桂も折るばかり 家の風をも吹かせてしがな