いな折らじ露に袂の濡れたらば
物思ひけりと人もこそ見れ
- 歌の意味
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いいえ、折りますまい。露で袂が濡れたならば、恋の物思いをして泣いたのだと、人が見ると困るから。
- 鑑賞
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巻第九 雑歌下 532
詞書「ある所に、説経し侍りける法師の従僧ばらの居て侍りけるに、簾の内より花を折りてと言ひ侍りければ」
花を折れば露で袂が濡れ、物思いをして泣いたのだと人に見られては困るので、折るまいと断った歌である。詞書から、ある所で説経をした法師に付き従う僧たちが控えていたところ、簾の内の女房から花を折ってほしいと頼まれて詠んだ歌とわかる。僧の身で恋の涙を疑われることをはばかるという口実で、女房の頼みを機知を込めて断っている。
作者の寿玄法師は、伝の詳らかでない僧である。
初句「いな折らじ」は、いいえ、折るまい、の意で、「じ」は打消の意志を表す助動詞である。ここで句切れとなる初句切れの歌である。
二句「露に袂の」は、露で袂が、の意で、花を折るときに袂が露に濡れることをいう。
三句「濡れたらば」は、濡れたならば、の意で、「ば」は未然形について仮定を表す。
四句「物思ひけりと」は、物思いをしたのだと、の意で、袂が涙に濡れることを恋の物思いのしるしとする考えによっている。
結句「人もこそ見れ」は、人が見ると困る、の意で、「もこそ」は、〜したら困る、という懸念を表し、係助詞「こそ」を受けて已然形の「見れ」で結ぶ係り結びである。
ずさう:従僧。師の僧に付き従う僧
せきやう:説経。経文の意味を講じて人々に聞かせること
たもと:袂。袖
- 作者
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寿玄法師
- 出典
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拾遺和歌集
- 前の歌
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勅なればいともかしこし鶯の 宿はと問はばいかが答へむ
- 次の歌
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梓弓はるかに見ゆる山の端を いかでか月のさして入るらん