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なき人の形見と思ふにあやしきは
ゑみても袖の濡るるなりけり

歌の意味
亡き人の形見と思うにつけて不思議なのは、この絵を見ても、笑みを浮かべても、袖が涙で濡れることであった。
鑑賞
巻第九 雑歌下 542

詞書「伊勢の御息所生み奉りたりける親王の、亡くなりにけるが書き置きたりける絵を、藤壺より麗景殿の女御の方に遣はしたりければ、この絵返すとて」
 亡き人の形見と思うと、絵を見ても、笑みを浮かべても袖が涙で濡れるのが不思議だと詠む歌である。詞書から、伊勢の御息所が生んだ親王が亡くなり、その親王が描き残した絵を藤壺から麗景殿の女御のもとへ送ってきたので、その絵を返すときに詠んだ歌とわかる。「絵見」と「笑み」を掛け、ほほえましい絵を見ても涙がこぼれる悲しみを詠んでいる。
 作者の「麗景殿宮の君」は、麗景殿の女御に仕えた女房とみられるが、伝は詳らかでない。伊勢の御息所は歌人の伊勢で、宇多天皇との間に生んだ皇子は幼くして亡くなった。

 初句「なき人の」は、亡くなった人の、の意で、詞書の親王を指す。
 二句「形見と思ふに」は、形見と思うにつけて、の意で、親王の描いた絵をいう。
 三句「あやしきは」は、不思議なのは、の意で、ここから下の句でその不思議を述べている。
 四句「ゑみても袖の」は、「ゑみ」が「絵見」と「笑み」を掛ける掛詞である。絵を見ても、笑みを浮かべても、の二つの意を重ねている。
 結句「濡るるなりけり」は、濡れることであった、の意で、「なり」は断定、「けり」は気づきの詠嘆を表す。

ゑみ:「絵見」と、「笑み」を掛ける
みやすどころ:御息所。天皇の寵愛を受けた女性
かたみ:形見。亡き人を思い出すよすがとなる品
作者
麗景殿宮の君
出典
拾遺和歌集
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あしからじよからむとてぞ別れけん 何か難波の浦は住み憂き
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