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空に満つおもひの煙雲ならば
ながむる人の目にぞ見えまし

歌の意味
空に満ちるというあなたの思いの火の煙が、本当に雲であるならば、物思いにふけって空を眺めている私の目にも見えたでしょうに。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 972

詞書「御返し」
 空に満ちるという思いの煙が雲であるならば、物思いにふけって眺めている私の目にも見えただろうに、と詠む歌である。帝の大げさな恋の誇張を受け止めながら、その煙の雲など見えないと切り返し、帝の思いを疑ってみせる機知に富んだ返歌である。
 詞書によれば、前歌の第九百七十一首に対する返歌である。帝の訪れを待って空を眺める自分の姿を示し、さりげなく恨みも込めている。
 作者の「少将更衣」は、円融天皇に仕えた更衣で、出自は明らかでない。

 初句「空に満つ」は、空に満ちる、の意である。前歌の第九百七十一首の「空に満ちぬれば」を受けている。
 二句「おもひの煙」は、恋の思いの火の煙、の意で、「おもひ」の「ひ」に「火」を掛けた掛詞である。前歌の「おもひ」「煙」をそのまま受けている。
 三句「雲ならば」は、雲であるならば、の意で、事実に反する仮定を表す。前歌の結句「雲となるらん」を受けている。
 四句「ながむる人の」は、物思いにふけって眺めている人の、の意で、自分自身を指している。
 結句「目にぞ見えまし」は、目に見えたであろうに、の意で、「まし」は三句の「ならば」と呼応する反実仮想の助動詞である。係助詞「ぞ」を受けて連体形で結んでいる。

おもひ:「思ひ」と、恋の炎の「火」を掛ける
ながむ:眺む。物思いにふけってぼんやりと見やる
作者
少将更衣
出典
拾遺和歌集
前の歌
限りなきおもひの空に満ちぬれば いくその煙雲となるらん
次の歌
思はずはつれなきこともつらからじ 頼めば人を怨みつるかな