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稲荷山社の数を人問はば
つれなき人をみつと答へむ

歌の意味
稲荷山の社の数を人が尋ねたならば、三つと答えよう。つれないあの人を見た、と。
鑑賞
巻第十九 雑恋 1211

詞書「稲荷に詣で会ひて侍りける女の、物言ひかけ侍りけれど、いらへもし侍らざりければ」
 稲荷山の社の数を人が尋ねたならば、三つと答えよう、つれない人を見たと、と詠む歌である。詞書から、稲荷に参詣して行き合った女に言葉をかけたが、返事もしなかったので詠んだ歌とわかる。稲荷の社が上中下の三社であることに「見つ」を掛け、返事もくれない女に出会ったことを、社の数の答えに託して軽妙に詠んでいる。
 作者の平定文は、平中とも呼ばれ、色好みの人物として平中物語の主人公とされる。中古三十六歌仙の一人である。

 初句「稲荷山」は、山城国の稲荷山で、稲荷の神をまつる社がある。本巻の第千二百六十七首、第千二百六十八首とともに、稲荷詣でにかかわる恋の歌である。
 二句「社の数を」は、稲荷の社の数を、の意で、稲荷は上中下の三社からなる。
 三句「人問はば」は、人が尋ねたならば、の意で、「ば」は未然形について仮定を表す。
 四句「つれなき人を」は、冷淡な人を、の意で、返事もしなかった詞書の女をいう。
 結句「みつと答へむ」は、「みつ」が社の数の「三つ」と、人を「見つ」を掛ける掛詞である。「む」は意志の助動詞である。

みつ:稲荷の社の数「三つ」と、「見つ」を掛ける
まうづ:詣づ。神社や寺に参る
いらへ:答え、返事
作者
平定文
出典
拾遺和歌集
前の歌
少女子が袖ふる山の瑞垣の 久しき世より思ひ初めてき
次の歌
三島江の玉江の葦を標めしより おのがとぞ思ふいまだ刈らねど