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少女子が袖ふる山の瑞垣の
久しき世より思ひ初めてき

歌の意味
少女が袖を振るという布留山の、石上の社の瑞垣が古いように、ずっと久しい昔から、あなたを思い始めていたのだ。
鑑賞
巻第十九 雑恋 1210

詞書「題しらず」
 少女が袖を振るという布留山の瑞垣が古いように、久しい昔からあなたを思い始めていたと詠む歌である。古くから神をまつる布留の社の瑞垣を持ち出して、相手を思ってきた歳月の長さと思いの深さを伝えている。
 本巻は雑恋の巻で、恋の部の巻とは別に、恋にかかわるさまざまな歌を集めている。詞書をもつ贈答や、伝説や地名を詠み込んだ歌、比喩や言葉遊びを用いた歌が多い。巻頭のこの歌が久しい昔から思い初めた恋を詠むのに対し、巻末の第千二百七十三首は、年の終わりに別れた人を待ちわびて年さえ恨めしいと詠む歌で結ばれており、恋の始まりで開き、待つ恋の恨みで閉じる構成となっている。
 作者の「柿本人麿」は柿本人麻呂である。持統天皇、文武天皇の時代に仕えた宮廷歌人で、歌聖と称される。三十六歌仙に数えられる。
 万葉集の巻四に、四句を「久しき時ゆ」、結句を「思ひき我は」とする類歌が見える。

 初句「少女子が」は、少女たちが、の意で、二句の「袖ふる」へと続いている。
 二句「袖ふる山の」は、「ふる」が袖を「振る」と、大和国の地名「布留」を掛ける掛詞である。布留山は石上神宮のある山である。
 三句「瑞垣の」は、神社の周りの垣の、の意で、石上の社の瑞垣をいう。ここまでが四句の「久しき」を導く序詞で、古い社の垣であることから久しさを引き出している。
 四句「久しき世より」は、遠い昔から、の意で、瑞垣の古さと、思いを寄せてきた歳月の長さを重ねている。巻末の第千二百七十三首の四句「年さへせめて」と、恋に過ぎる歳月を詠む点で呼応している。
 結句「思ひ初めてき」は、思い始めたのだ、の意で、「て」は完了の助動詞「つ」の連用形、「き」は過去の助動詞である。

ふる:袖を「振る」意と、大和国の地名「布留」を掛ける
をとめご:少女子。少女
みづがき:瑞垣。神社の周囲の垣
作者
柿本人麻呂
出典
拾遺和歌集
前の歌
生きたるか死ぬるかいかに思ほえず 身より他なる玉櫛笥かな
次の歌
稲荷山社の数を人問はば つれなき人をみつと答へむ