人なしし胸の乳房をほむらにて
焼くすみぞめの衣着よ君
- 歌の意味
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あなたを一人前の人に育てたこの胸の乳房を炎として焼いた炭で染めた、墨染の衣を着なさい、あなた。
- 鑑賞
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巻第二十 哀傷 1294
詞書「としのぶが流されける時、流さるる人は重服を着てまかると聞きて、母がもとより衣に結びつけて侍りける」
あなたを育てたこの胸の乳房を炎として焼いた炭で染めた墨染の衣を着なさいと詠む歌である。詞書から、としのぶが流罪となった時、流される人は重い喪服を着て行くと聞いて、母のもとから衣に結びつけて贈った歌とわかる。わが子を育てた乳房を燃やして染めた喪服だと言うことで、流される子との別れを、生きながらの死別のように嘆く母の悲痛な思いを伝えている。
作者のとしのぶの母は、詞書のとしのぶの母である。としのぶが誰を指すかは明らかでない。
初句「人なしし」は、一人前の人に育てた、の意で、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
二句「胸の乳房を」は、わが胸の乳房を、の意で、子を育てた母の身をいう。
三句「ほむらにて」は、炎として、の意で、胸の思いの火を重ねている。
四句「焼くすみぞめの」は、「すみ」が焼いた「炭」と、「墨染」の「墨」を掛ける掛詞である。本巻の第千二百九十首の三句「すみぞめの」と、同じ語を共有している。
結句「衣着よ君」は、衣を着なさい、あなた、の意で、命令形で呼びかけている。
すみ:焼いた「炭」と、墨染の「墨」を掛ける
ぢゆうぶく:重服。父母などの重い喪に着る喪服
ほむら:炎
- 作者
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としのぶの母
- 出典
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拾遺和歌集
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限りあれば今日脱ぎ捨てつ藤衣 果てなきものは涙なりけり
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藤衣あひ見るべしと思ひせば まつにかかりて慰めてまし