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思ふより言ふはおろかになりぬれば
たとへて言はん言の葉ぞなき

歌の意味
心に思うことに比べて、口に出して言うことは不十分になってしまうので、たとえて言い表すような言葉もない。
鑑賞
巻第二十 哀傷 1308

詞書「伊勢がもとにこの事を訪ひに遣はすとて」
 心に思うよりも言葉にするとおろそかになってしまうので、たとえて言う言葉もないと詠む歌である。詞書から、伊勢が皇子を亡くしたことを見舞って送った歌とわかる。前歌の第千三百七首の伊勢の悲しみに対し、お悔やみの言葉を尽くそうとしても、心に思うことの深さには言葉が及ばないと、言葉の限界を述べることで、かえって深い同情を伝えている。
 作者の平定文は、平中とも呼ばれ、色好みの人物として平中物語の主人公とされる。中古三十六歌仙の一人である。

 初句「思ふより」は、心に思うよりも、の意である。
 二句「言ふはおろかに」は、口に出して言うことは不十分に、の意で、「おろか」は言い尽くせないことをいう。
 三句「なりぬれば」は、なってしまうので、の意で、「ぬれ」は完了の助動詞「ぬ」の已然形、「ば」は原因を表す。
 四句「たとへて言はん」は、たとえて言い表すような、の意で、「ん」は婉曲の助動詞である。本巻の第千二百八十六首の結句「何にたとへん」と、悲しみをたとえるものがない趣を共有している。
 結句「言の葉ぞなき」は、言葉もない、の意で、係助詞「ぞ」を受けて形容詞「なし」の連体形「なき」で結ぶ係り結びである。

ことのは:言の葉。言葉
おろか:疎か。不十分なこと、言い尽くせないこと
作者
平定文
出典
拾遺和歌集
前の歌
死出の山越えて来つらん郭公 恋しき人の上語らなん
次の歌
恋ふる間に年の暮れなば亡き人の 別れやいとど遠くなりなん