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山桜匂ふあたりの春霞
風をばよそに立ち隔てなむ

歌の意味
山桜が美しく咲いているあたりの春霞よ、花を散らす風を、よそへと立ち隔ててほしい。
鑑賞
巻第一 春歌上 48

詞書「寛治八年前太政大臣の高陽院の家の歌合に、桜の歌とてよめる」
 寛治八年(1094)、前太政大臣藤原師実の高陽院の邸で催された歌合で、「桜」を題として詠んだ歌である。山桜が美しく咲くあたりにたなびく春霞に向かって、花を散らす風を遠くへ隔てて近づけないでほしいと呼びかけている。花を隠すものとして詠まれがちな霞を、花を守る垣根のように見立てた趣向である。
 作者の「中納言女王」は平安後期の女流歌人である。名に「女王」とあることから皇族の血筋に連なる女性と考えられるが、詳しい系譜は明らかでない。

 初句「山桜」は、詠む対象を最初に示す。
 二句「匂ふあたりの」の「匂ふ」は、美しく照り映える意で、桜が咲き誇るさまをいう。
 三句「春霞」は、霞への呼びかけで、ここで句切れとなる。
 四句「風をばよそに」の「をば」は強調を表し、花を散らす風を花から離れた所に、の意となる。本巻の第五十七首は霞が花を隠すのを風が知らせると詠み、霞と風の役割が反転した対をなす。
 結句「立ち隔てなむ」の「なむ」は他に対する願望の終助詞で、隔ててほしい、の意である。「立ち」は霞の縁語である。

へだつ:間をさえぎって離す
よそ:離れた所
作者
中納言女王
出典
千載和歌集
前の歌
帰るさを急がぬほどの道ならば のどかに峰の花は見てまし
次の歌
花ゆゑにかからぬ山ぞなかりける 心は春の霞ならねど