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飽かで行く春の別れにいにしへの
人やうづきと言ひはじめけん

歌の意味
名残を惜しみきれないまま去ってゆく春との別れがつらいので、昔の人はこの月を、憂さを含んだ「卯月」と呼びはじめたのだろうか。
鑑賞
巻第三 夏歌 138

詞書「崇徳院に百首歌奉りける時、夏のはじめの歌とてよめる」
 崇徳院に百首歌を奉った際に、「夏のはじめ」を題として詠んだ歌である。名残の尽きないうちに去ってゆく春との別れがつらいので、昔の人は四月を「うづき」と呼びはじめたのだろうか、と詠む。「うづき」の「う」につらい意の「憂し」を響かせ、月の名の由来を春との別れの憂さに求めた機知の歌である。前の二首が衣替えを詠んだのに続き、夏の最初の月の名を詠む。
 作者の「藤原実清朝臣」は平安時代後期の廷臣で、崇徳院の久安百首の作者の一人である。詳しい伝は明らかでない。

 初句「飽かで行く」の「で」は打消の接続助詞で、満ち足りないまま去ってゆく、の意である。
 二句「春の別れに」は、春との別れのつらさに、の意である。巻第二の巻末近くで惜しまれた春との別れを、夏の巻の側から振り返っている。
 三句「いにしへの」は、四句の「人」にかかり、昔の人の、の意となる。
 四句「人やうづきと」の「や」は疑問の係助詞で、結句の「けん」と係り結びをなす。「うづき」は四月の異名「卯月」に、つらい意の「憂」を掛ける。
 結句「言ひはじめけん」の「けん」は過去推量の助動詞「けむ」の連体形で、「や」の結びとなる。言いはじめたのだろうか、と月の名の由来を推し量る。

うづき:陰暦四月の異名「卯月」に、つらい意の「憂」を掛ける
あく:満ち足りる、飽きる
作者
藤原実清
出典
千載和歌集
前の歌
今日かふる蝉の羽衣着てみれば 袂に夏はたつにぞありける
次の歌
むらむらに咲ける垣根の卯の花は 木の間の月の心地こそすれ