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音にさへ袂を濡らす時雨かな
槙の板屋の夜半の寝覚めに

歌の意味
音を聞くだけでさえ袂を濡らす時雨であることよ。槙の板で葺いた家で、夜中にふと目を覚ましたときには。
鑑賞
巻第六 冬歌 403

詞書「法性寺入道前太政大臣内大臣に侍りける時、家の歌合に、時雨をよめる」
 法性寺入道前太政大臣藤原忠通が内大臣であった時の家の歌合で、時雨の題で詠んだ歌である。槙の板屋で夜中に目を覚ますと、時雨はその音だけで袂を濡らすことだ、と詠む。袂を濡らすのは雨ではなく、時雨の音にさそわれてこぼれる涙であり、寝覚めの寂しさが表されている。
 作者の「源定信(法名道舜)」は、出家して道舜と号した院政期の歌人である。藤原忠通の家の歌合に出詠したことが知られるが、詳しい伝は明らかでない。
 前歌の第四百二首の寝覚めに聞く時雨を受け、本歌も寝覚めの時雨を詠む。また本歌から第四百五首までの三首は、板屋や漏れる、漏れないといった語でつながり、雨音を聞く家の内からの時雨を詠んでいる。

 初句「音にさへ」の「さへ」は、〜までも、の意で、時雨が実際に濡らすのではなく、音だけでさえ、と示す。
 二句「袂を濡らす」の「袂」は着物の袖である。袂を濡らすのは涙であり、時雨の音に誘われて泣くことをいう。本巻の第四百十七首も「漏らでも人の袖濡らしけれ」と、時雨が袖を濡らすことを詠む。
 三句「時雨かな」の「かな」は詠嘆の終助詞で、ここで句切れとなる。下の句と倒置になっている。
 四句「槙の板屋の」の「槙の板屋」は、槙の板で屋根を葺いた粗末な家である。次歌の第四百四首と本巻の第四百四十四首も同じ句を置く。
 結句「夜半の寝覚めに」は、前歌の第四百二首の「寝覚めして」「夜半の時雨を」と同じ語を用いて結ぶ。

たもと:着物の袖
まきのいたや:槙の板で屋根を葺いた家
作者
源定信
出典
千載和歌集
前の歌
寝覚めして誰か聞くらんこの頃の 木の葉にかかる夜半の時雨を
次の歌
まばらなる槙の板屋に音はして 漏らぬ時雨や木の葉なるらん