山里の垣根の梅は咲きにけり
かばかりこそは春も匂はめ
- 歌の意味
-
山里の垣根の梅は、もう咲いたことだ。春になっても、これほどにこそ美しく咲き匂うのであろう。
- 鑑賞
-
巻第六 冬歌 468
詞書「年のうちに梅花の咲けるを見てよみ侍りける」
年の内、まだ春の来ないうちに梅の花が咲いたのを見て詠んだ歌である。山里の垣根の梅はもう咲いた、春になってもこれほどにこそ美しく咲き匂うのであろう、と詠む。冬のうちに咲いた梅に、これから訪れる春の美しさを先取りして感じ取っている。
作者の「天台座主明快」は平安時代中期の天台宗の僧である。延暦寺で学んで天台座主となり、のちに大僧正に至った。梨本僧正と呼ばれた。
本巻の第四百五十七首は「山里の垣根は雪に埋もれて」と、本歌と同じく山里の垣根を詠んだ。第四百五十七首の雪に埋もれた垣根に対し、本歌は梅の咲いた垣根を詠み、雪と梅とが対照をなしている。冬歌の終わり近くに置かれ、雪の歌から年の暮れの歌への間で、次の春を予告する役割を果たしている。
初句「山里の」は、都を離れた山あいの里である。本巻の第四百五十七首と同じ初句である。
二句「垣根の梅は」の「垣根」は、家の敷地を囲う垣である。本巻の第四百五十七首の「垣根は雪に」と、同じ垣根に雪と梅を対照させる。
三句「咲きにけり」の「に」は完了の助動詞、「けり」は詠嘆の助動詞で、もう咲いたのだ、と驚きを示す。ここで句切れとなる。
四句「かばかりこそは」の「かばかり」は、これほど、の意である。「こそ」は強意の係助詞で、結句の「め」と已然形で結ぶ。
結句「春も匂はめ」の「匂ふ」は色美しく咲き映える意で、「め」は推量の助動詞「む」の已然形である。春になってもこれほどに咲き映えるだろう、と来るべき春を思う。
かきね:家の敷地を囲う垣
にほふ:色美しく咲き映える、香る
- 作者
-
明快
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
降るままに跡絶えぬれば鈴鹿山 雪こそ関の鎖しなりけれ
- 次の歌
-
かき暗しこし路も見えず降る雪に いかでか年の帰りゆくらん