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悲しさをこれよりけにや思はまし
かねてならはぬ別れなりせば

歌の意味
悲しさを、今よりもいっそう深く思ったことだろうか。前もって疎遠になって離れることに慣れていたのではない別れであったならば。
鑑賞
巻第九 哀傷歌 580

詞書「語らひける童、思はず疎くなりにける後、亡くなりにけるを、人の弔ひて侍りければよめる」
 親しくしていた童が、思いがけず疎遠になったのちに亡くなり、そのことを人が弔問してくれたので詠んだ歌である。前もって離れることに慣れていたのではない別れであったなら、悲しさを今よりいっそう深く思っただろうか、と詠む。生前に疎遠になっていたので、別れにはいくらか慣れていたはずだと自らに言い聞かせながら、それでもなお深い悲しみがにじむ歌である。
 作者の「静厳法師」は平安時代後期の僧であるが、経歴の詳細は多く伝わらない。

 初句「悲しさを」は、童を失った悲しさを、の意である。
 二句「これよりけにや」の「けに」は、いっそう、の意である。「や」は疑問の係助詞で、三句の「まし」と連体形で結ぶ。
 三句「思はまし」の「まし」は反実仮想の助動詞で、結句の「せば」と呼応し、思っただろうか、の意となる。ここで句切れとなる。
 四句「かねてならはぬ」の「かねて」は、前もって、の意、「ならは」は慣れる意の「ならふ」の未然形で、前もって慣れていない、の意である。生前の疎遠によって、別れに慣れていたことを裏に含む。
 結句「別れなりせば」の「せ」は過去の助動詞「き」の未然形で、「ば」が付いて、別れであったならば、の仮定条件となる。三句の「まし」と呼応する反実仮想である。

かたらふ:親しく交わる
わらは:寺などに仕える少年
とぶらふ:弔問する、見舞う
ならふ:慣れる
作者
静厳
出典
千載和歌集
前の歌
散り散りに別るる今日の悲しさに 涙しもこそ止まらざりけれ
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墨染の色はいづれも変はらぬを 濡れぬや君が衣なるらん