墨染の色はいづれも変はらぬを
濡れぬや君が衣なるらん
- 歌の意味
-
墨染の色は、僧衣も喪服もどちらも変わらないけれども、涙に濡れていないほうが、あなたの衣なのだろう。
- 鑑賞
-
巻第九 哀傷歌 581
詞書「服に侍りける時、ある上人の来たれりけるが、墨染の袈裟を忘れて取りに遣はしたりければ、遣はすとてよめる」
作者が喪に服していた時、ある上人が訪ねてきて、墨染の袈裟を置き忘れ、使いをよこして取りに来させたので、それを返す時に詠んだ歌である。墨染の色はどちらも変わらないけれども、涙に濡れていないほうがあなたの衣なのだろう、と詠む。上人の僧衣も自分の喪服も同じ墨染の色だが、自分の衣は涙に濡れているという機知によって、喪の悲しみを伝えている。
作者の「天台座主勝範」は平安時代中期の天台宗の僧で、天台座主に至った。
初句「墨染の」は、墨で染めたような黒い色で、上人の僧衣と作者の喪服の両方をいう。本巻の第五百七十一首、第五百七十二首も墨染を詠む。
二句「色はいづれも」は、色はどちらも、の意である。
三句「変はらぬを」の「を」は逆接の接続助詞で、変わらないけれども、の意である。
四句「濡れぬや」の「ぬ」は打消しの助動詞「ず」の連体形、「や」は疑問の係助詞で、結句の「らん」と連体形で結ぶ。涙に濡れていないほう、の意である。
結句「君が衣なるらん」の「らん」は現在推量の助動詞で、あなたの衣なのだろう、の意である。自分の喪服は涙に濡れていることを裏に含む。
ぶく:喪に服すること、また喪服
しやうにん:徳の高い僧
けさ:僧が衣の上に左肩から掛ける布
- 作者
-
勝範
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
悲しさをこれよりけにや思はまし かねてならはぬ別れなりせば
- 次の歌
-
常よりも睦ましきかな郭公 死出の山路の友と思へば