嘆きあまり知らせそめつる言の葉も
思ふばかりは言はれざりけり
- 歌の意味
-
嘆きのあまり、思いを初めて知らせた言葉も、心に思うほどには言い表せなかったことだ。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌一 660
詞書「恋の歌とて詠める」
恋の歌として詠んだ歌である。嘆きのあまり初めて思いを知らせた言葉も、思うほどには言えなかった、と詠む。忍びきれずについに打ち明けたものの、言葉にしてみると心の深さには到底及ばなかったというもどかしさを詠んでいる。
作者の「源明賢朝臣」は平安時代後期の官人、歌人である。経歴の詳細は多く伝わらない。
本巻の第六百四十九首が「問はず語りのせまほしき」と打ち明けたい心を詠んだのに対し、本歌は打ち明けてもなお言い尽くせない心を詠む。また第六百五十七首、第六百八十五首も「言の葉」を詠んでいる。
初句「嘆きあまり」は字余りで、嘆きのあまり、の意である。
二句「知らせそめつる」の「そめ」は…し始める意の「初む」の連用形、「つる」は完了の助動詞「つ」の連体形で、初めて知らせた、の意である。
三句「言の葉も」は、その言葉も、の意である。第六百五十七首の四句「我が言の葉を」と同じ語である。
四句「思ふばかりは」の「ばかり」は程度を表し、心に思うほどには、の意である。
結句「言はれざりけり」の「れ」は可能の助動詞「る」の未然形、「ざり」は打消し、「けり」は気づきの詠嘆で、言うことができなかったことだ、の意である。
ことのは:言葉
しらせそむ:初めて知らせる
- 作者
-
源明賢
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
たちしよりはれずも物を思ふかな なき名や野辺の霞なるらん
- 次の歌
-
人知れぬ木の葉の下の埋もれ水 思ふ心をかき流さばや