たちしよりはれずも物を思ふかな
なき名や野辺の霞なるらん
- 歌の意味
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噂が立ってからというもの、心が晴れることもなく物思いをしていることだ。根も葉もない浮き名は、立ちこめて晴れない野辺の霞なのだろうか。
- 鑑賞
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巻第十一 恋歌一 659
詞書「権中納言俊忠桂の家にて、なき名立つ恋といふ心を詠み侍りけるに」
藤原俊忠の桂の家で「なき名立つ恋」の題により詠んだ歌である。噂が立ってから晴れることもなく物思いをしている、事実無根の浮き名は野辺の霞なのだろうか、と詠む。「立つ」「晴れず」を霞の縁で用い、身に覚えのない噂が霞のように立ちこめて消えず、心も晴れない苦しさを表している。
作者の「源俊頼朝臣」は大納言源経信の子である。堀河院歌壇の中心として活躍し、白河院の命で金葉和歌集を撰んだ。家集に「散木奇歌集」がある。小倉百人一首にも歌が採られている。
本巻の第六百六十九首も結句を「霞なるらん」とし、つれない心を逢坂の関路を隔てる霞にたとえている。また第六百九十五首、第六百九十六首の贈答も「なき名」をめぐる歌である。
初句「たちしより」の「たち」は、噂が立つ意と、霞が立つ意を掛ける。「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、立ってからというもの、の意である。
二句「はれずも物を」の「はれ」は、霞が晴れる意と、心が晴れる意を掛ける。
三句「思ふかな」の「かな」は詠嘆の終助詞で、物思いをすることだ、の意である。ここで句切れとなる。
四句「なき名や野辺の」の「なき名」は事実無根の噂、浮き名である。「や」は疑問の係助詞で、結句の「らん」と連体形で結ぶ。第六百九十五首の結句「なき名ならじを」と同じ語である。
結句「霞なるらん」の「らん」は現在推量の助動詞「らむ」の連体形で、四句の「や」を受けて結ぶ。「霞」は一首の「たち」「はれ」と縁語になる。第六百六十九首の結句と同じ句である。
たつ:噂が立つ意と、霞が立つ意を掛ける
はる:霞が晴れる意と、心が晴れる意を掛ける
なきな:事実無根の噂、浮き名
- 作者
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源俊頼
- 出典
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千載和歌集
- 前の歌
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人知れず物思ふころの袖見れば 雨も涙もわかれざりけり
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嘆きあまり知らせそめつる言の葉も 思ふばかりは言はれざりけり