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人知れず思ひそめてし心こそ
今は涙の色となりけれ

歌の意味
人知れず思い初めた心こそが、今では紅の涙の色となって表に現れたことだ。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 687

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 人知れず思い初めた心が、今は涙の色となった、と詠む。恋の始まりにはひそかに抱いた思いが、恋が深まるにつれて紅の涙となって表に現れるまでになったと、時の経過とともに深まる恋を詠んでいる。「思ひそめ」の「そめ」に「初め」と「染め」を掛け、四句の「色」と照応させている。
 作者の「源季貞」は平家に仕えた武士とされ、歌人としても知られた。
 本巻の第六百四十五首の結句「思ひ初めてき」と同じく、恋の初めを「思ひそむ」と詠む。また次歌の第六百八十八首も、涙が袂を染めて心のほどを知らせると詠み、涙の色を詠む二首が並ぶ。

 初句「人知れず」は、人に知られないで、の意である。第六百五十八首、第六百八十四首も同じ初句で始まる。
 二句「思ひそめてし」の「そめ」は、思い始める意の「初め」と、色に染める意の「染め」を掛け、四句の「色」と縁語になる。「てし」は完了の助動詞「つ」の連用形に過去の助動詞「き」の連体形が付いたものである。
 三句「心こそ」の「こそ」は強意の係助詞で、結句の「けれ」と已然形で結ぶ。
 四句「今は涙の」は、今では涙の、の意で、二句の恋の初めと対照をなす。
 結句「色となりけれ」の「色」は紅の涙の色、「けれ」は気づきの詠嘆「けり」の已然形で、三句の「こそ」を受けて結ぶ。次歌の第六百八十八首の四句「袂を染むる」と、涙の色を詠む点で共通する。

おもひそむ:思い始める意と、心を染める意を掛ける
いろ:ここでは紅に染まった涙の色
作者
源季貞
出典
千載和歌集
前の歌
落つれども軒に知られぬ玉水は 恋のながめの雫なりけり
次の歌
色見えぬ心のほどを知らするは 袂を染むる涙なりけり